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野菜炒め定食 と 秘密結社

野菜炒め定食が好きだ。

どれくらい好きかと言われれば、このサイト初の投稿となる文章を「野菜炒め定食」という、なんとも”引きのない”テーマにしてしまうほどには好き。

ただ、大好物かと問われると、そうではない。

毎日のように食べるかといえば、そうでもない。

正直、魚介類のほうがよっぽど好きだ。魚介類なら毎日でも食べたい。

というか、好物を聞かれて「野菜炒め定食です!」って答える人がいるんだろうか。

少なくとも僕は出会ったことがない(※もし、野菜炒めが大好物だっていう方がいたらごめんなさい)。

もし、東京ウォーカーの編集者が「次の第一特集は、野菜炒め定食でいきましょう!」なんていったら、きっと編集長にひっぱたかれるだろう(※もし、東京ウォーカーの編集長だっていう方がいたらごめんなさい) 。

それくらい、野菜炒め定食には”引きがない”。

でもそんなところも含めて、僕は野菜炒め定食に好感を持っている。

安くて、安定感があって、栄養もある(たぶん)。

例えるならば、「すっごくイケメンってわけではないけど、人当たりがよくて、近所のマダムたちから大人気のお兄さん」みたいな。

野菜炒め定食には、そんなイメージがあるのだ。

さて、僕が野菜炒め定食を食べるのは決まって外に出ているときだ。

それも決まって中華屋さんだ。もちろん高級中華などではない。町の中華屋さん。

お腹が空いたなと思って近くのお店を探す。気になったお店の前のメニュー看板なんかを眺めて、おおよその金額設定を見る。

最近はどのお店も金額が高くて、貧乏な僕にはおいそれと手が出ない。

そんなときに流れ着くのが町の中華屋さん。外食自体が僕にとっては贅沢だが、ランチタイムにはお得なセットがあるから罪悪感が少し減る。

  A.麻婆豆腐定食、B.油淋鶏定食、C.野菜炒め定食

看板を眺めると、こんな感じに並んでいる。ほぼ9割はこの並びだ(※僕調べ。信憑性はとても低い)。

おじさんからおねぇさんまで大好き町中華の王「麻婆豆腐」、若者の胃袋もガッツリみたすパワーアタッカー「油淋鶏」、そして野菜炒め。二大巨頭と肩を並べるのが恥ずかしいのか、なんだか少し所在なさげに見える。

もちろんお店によって、麻婆豆腐が回鍋肉になったり、油淋鶏が五目あんかけ炒飯になっていたり、バリエーションがあるだろう。日替わりで変わるところもある。

だが、野菜炒めだけは大抵いつでも、どこでも居る。しかも、大体一番安い。

僕は迷わず、「C」を選ぶ。……嘘だ。

看板を見たときには麻婆豆腐か油淋鶏がいいなあって思う。だが、散々迷った挙げ句、結局、野菜炒めになってしまう。

注文する直前まで、「麻婆豆腐」だって思っていたのに、気がつくと野菜炒めが運ばれてくる。

こんなことを数え切れないくらいやっているのだ。

ああ、また野菜炒めを頼んでしまった……と思うのだが、結果的には満足する。だって、安定して美味しいし、なんだかんだで丁度いいくらいの量だし。

なんか、「地味だけど家庭的な女性」みたいな感じ。こう考えると僕も一途な男性って感じがしていい(いつも散々他と迷っているけど)。

ただ、この「安定して美味しい」っていうのが、この「町中華の野菜炒め」最大の謎なのだ。

なんか、どこの中華屋さんで食べても同じ味じゃないですか? 野菜炒め。

他の料理って結構差があるように感じるのに、野菜炒めだけはどこで食べてもほとんど同じ味に感じる。

なにか「野菜炒めの素」みたいなのが、業務用で売られているんだろうか? でも、野菜炒めごときといってはなんだが、野菜炒めを作るためだけの素って需要あるんだろうか。回鍋肉とかならまだしも。

野菜炒めをしっかり味わうと、単純な味のようで、なかなか複雑な味をしているのがわかる。なんか適当に野菜切って適当に塩コショウだけ振りましたっていう感じではないと思う。たぶん。

もし、そういう素がないんだとしたら、使用する調味料とその分量、油の種類、野菜の切り方、加熱時間、使うダシ、そういう一切合切をすべて正確に管理しているんじゃないか。

でも、野菜炒めごときにそんな労力をかけたいです? 所詮、他の料理で使った食材の端っことかを無駄にしないためのメニューでしょ? そんなメニューにそんなに労力を割きたくないでしょ?

そうなってくると、中華屋さんの店主たちは矯正されているとしか思えない。なんか、チャイニーズマフィアみたいな。野菜炒め同門会みたいな。そういう秘密結社があって、野菜炒めのレシピを力づくで統一しているのだ。

少しでも分量や切り方を間違えれば命はない。

そうなれば、必ず定食メニューの中には野菜炒め定食が入っていることにも納得がいく。野菜炒めをメニューから外そうものなら、野菜炒め同門会が黙っちゃいない。

同門会のやり方は、非道そのもの。血も涙もないとは彼らのことだ。僕の行きつけだった中華屋さんが急に店を畳んだのは、きっと……。

そこまで考えて、同門会の目的はなんなのかという問題が浮かび上がってきた。

……。

まあ、人生わからないことのほうが多い。

それに同門会のことを知りすぎても、危ないかもしれない。

みなさんも気をつけてほしい。

まあ、でも、同門会のおかげで僕らは美味しい野菜炒め定食が食べられるのだ。それでいいじゃないか。

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