昨今、性的マイノリティという言葉が本当に広まってきたなあと思います。僕はこの手の話題に詳しいわけではないですが、いい流れだなと思っています。これまで意識的な、もしくは無意識的な差別に晒されてきた人々が少しずつ生きやすい世の中になっていくのであれば、それは誰にとっても悪いことではないでしょう。なので、個人的にはこうした流れには賛成の立場です。ただ、中には批判的に捉えている方も少なからずいらっしゃるでしょう。そうした方を非難する意図はありませんが、社会から性的な差別が完全になくなることはずっと先のことになるかもしれませんね。
まあ、まさに新しい性的価値観への「過渡期」といえる日本ですが、それを肌で感じたエピソードがあります。
以前、ある遊園地に行ったときの話です。そこでは決まった時間になると大道芸のステージショーが行われます。僕は初めてその遊園地に行ったので、ステージショーがあること自体知らなかったのですが、常連のお客さんと思しき方々が早々に集まっているのをみて、せっかくだからと僕らもみてみるみることに。
集まっているのは小さなお子さんを連れたご家族がほとんど。僕も親戚の子供と一緒に、ショーの開始をいまかいまかと待っていました。しばらく待つと陽気な音楽とともに、派手なメイクと衣装を身にまとった2人組が元気に登場。真冬の会場にもかかわらず、肌が露出しているペラペラの会場のお子さんたちも大喜びです。僕も負けじと大興奮。
よく見ると、真冬にもかかわらず肌が露出したペラペラの衣装なんですよね。僕なんか冬用のコート来ててもブルブル震えていたぐらいの寒さですよ。そんな中一切寒さを感じさせない、明るいパフォーマンスはまさにプロ。プロの大道芸人魂を垣間見ました。
で、その2人組の内の1人が、いわゆる「オネエキャラ」と呼ばれる設定だったんです(便宜上、以降「オネエキャラ」と呼ばせていただきます)。その「オネエキャラ」の演者の方は、他のときには男性としてパフォーマンスされているので、本当にそのステージ上のキャラクターとして演じていただけだと思います。まあ、その方の実際の性的指向がどうなのかはここでは関係ないので置いておきますが、2人のコント的なやり取りの中で「『オネエキャラ』は男なのか女なのか」という問答が始まりました。「オネエキャラ」は「自分は女の子だ」と何度も主張している。そうした流れでコールアンドレスポンス?と言うんでしょうか。観客に対して「『オネエキャラ』が、男だと思うか女だと思うか」の挙手アンケートをとることに。
僕は、本人が「自分は女の子だ」と主張しているのだから、女の子だろうと思い、女の子に挙手をしたんですね。「女の子」に挙げたのは僕を含めて数人(たしか、二桁には届かないくらいの人数だったと思う)。
でも、演者さんにとっては予想よりも多かったんでしょうね。このときの演者さんたちが、僕たちの方を見ながら「少し困った」表情を浮かべて、リアクションも曖昧なものに。おそらく、演者さんたちにとっては全員が「男の子」に挙げてくれたほうが、大きいリアクションが取りやすかったはずです。僕は、意図せずとはいえ、パフォーマンスの邪魔をしてしまったような、そんな気持ちになりました。
演者さんたちは決して「性的マイノリティ」にあたる方々を揶揄する意図はなかった。ただ、お客さんに笑ってほしくて、楽しんでほしくて、そんな純粋な気持ちを持ってパフォーマンスをしていたはずです。この「オネエキャラ」も、コールアンドレスポンスも、ずっと笑ってもらってきた演目の一つなのでしょう。そうでなければ、寒空の下、あんな笑顔で全力のパフォーマンスをすることなんて出来ません。
だからこそ、僕は、演者のお二人の邪魔をしてしまったような気持ちがとても悲しかったのです。もしかしたら、スムーズな進行を邪魔しようと悪ふざけしている人間に映ったかもしれません。
ただ、僕の傍らには幼い子供がいました。親戚の子供だけでなく、観客の中にもたくさんの子供たちがいました。まだ価値観が確立されきっていない子供たちの前で、「女の子だ」と宣言している相手に対して「いや、あなたは男の子です」と言うことは冗談でも憚れたのです。
長い間、劇場でも、テレビでも、「オカマ」「おナベ」「ゲイ」といった、性的マイノリティが「ネタ」として成立してきました。しばらくはそうしたものが続いていくでしょう。そう簡単に人々の根付いてしまった価値観は変わりませんから。その中で、「性的マイノリティとお笑い」というものの難しさを感じたのでした。